小さな学習塾を年度途中で閉じるなら、先に転塾先を探すのではありません。まず、在籍する家庭と何を約束し、どこまで終えているかを確定します。
とくに受験学年には、通常授業のほか、季節講習、模擬試験、答案添削、面接練習、志望校相談が残っていることがあります。「受験まで見る」という言葉だけでは、授業の範囲も期限も分かりません。
生徒ごとではなく、約束ごとに数える
申込書、契約書、請求書、入金記録、出席簿、授業予定表、保護者との連絡を照合します。一人の生徒が複数の授業や講習を申し込んでいる場合は、分けて記録します。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 通常授業 | 科目、予定回数、実施済みの回数、支払済みの期間 |
| 季節講習・追加授業 | 申込回数、実施回数、残りの日程、受領額 |
| 振替授業 | 欠席日、振替の約束、実施期限 |
| 模擬試験・検定 | 申込み、受験料、実施日、外部機関への発注状況 |
| 教材 | 発注、配布、使用状況、費用 |
| 個別の約束 | 添削、面接・作文練習、志望校面談、学校説明会後の相談など |
中学受験の生徒なら、国語・算数・理科・社会を科目別に確認します。一科目の授業が終わっていても、ほかの科目や面談が残っていることがあります。
記録と記憶が合わない部分は、推測で埋めません。「確認中」として、案内を出す前に家庭と確かめます。
退去日より先に、最後に行う仕事を決める
教室の明渡日を最終授業日にすると、採点、教材の返却、保護者面談の時間がなくなります。閉室日の候補を置き、確定済みの授業、模試、添削の返却、教材の受け渡しをカレンダーへ入れます。
講師が対応できる時間も、授業だけで埋めないことです。授業準備、家庭への連絡、精算、記録整理の時間を残します。
予定どおり提供できない授業があれば、実施できるものとできないものを分けて伝えます。対面授業を一方的にオンラインへ替えたり、別の講師の授業を同じ条件として扱ったりせず、契約内容と家庭の意向を確認します。
閉室後の質問対応にも期限が要ります。「受験までいつでも相談できる」とは案内せず、対応できる期間と連絡方法を具体的に決めます。
転塾先を選ぶのは家庭
近隣の塾や個人講師へ、受け入れの可否を尋ねることはできます。候補を探す段階で、生徒の氏名、学校名、住所、成績表を渡す必要はありません。学年、科目、人数、希望曜日など、個人を特定しない条件で確認します。
候補が見つかっても、「そのまま移れる」とは限りません。定員、入塾テスト、授業料、教材、指導方針は候補先が決めます。現在の塾との契約を終了して別の塾と契約する場合と、教室の事業自体を承継する場合とでも、手続は異なります。
学習状況は、塾から紹介先へ直接送るより、まず家庭へ渡す方が整理しやすくなります。引継ぎ用のメモには、次の内容を簡潔に記します。
- 使用中の教材名と版
- 終えた単元と未着手の単元
- 現在の課題
- 実施日を付けた直近のテスト結果
- 予定していた講習、模試、面談
主観的な人物評価や、指導に不要な家庭事情は記載しません。どの資料を次の塾へ見せるかは、家庭に選んでもらいます。
名簿や成績を紹介先へ先に渡さない
個人情報保護委員会のガイドラインでは、個人データを第三者へ提供する場合、原則として事前の本人同意が必要です。一方、合併、分社化、事業譲渡などによる事業承継に伴う提供では、承継先は第三者に当たらないとされています。ただし、承継後も承継前の利用目的の範囲内で扱わなければなりません。
別の塾を紹介することと、事業を正式に承継することは同じではありません。紹介先へ情報を送る場合は、受取先、提供項目、利用目的、送付時期を明らかにします。誰の同意が必要かは、生徒の年齢、契約者、情報の内容によって確認が必要です。
事業承継に当たるか、契約上の立場まで移せるかは個別事情で変わります。候補先へ名簿や成績を開示する前に、弁護士などへ契約書と計画を示して確認します。
前払いは費目ごとに精算する
受領総額だけを見ても、返金額は決まりません。授業料、講習費、模試代、教材費、施設費を分け、契約内容と実績を合わせます。
| 費目 | 照合すること |
|---|---|
| 月謝 | 対象期間、予定した授業、実施済みの授業 |
| 季節講習費 | 申込回数、実施回数、未実施分 |
| 模試・検定料 | 外部への申込みと支払い、取消しの可否 |
| 教材費 | 発注、配布、使用状況、申込時の条件 |
| 施設費など | 費用の目的、対象期間、契約書面の記載 |
未実施回数に一回分の単価を掛ければ、そのまま返金額になるとは限りません。月謝制、割引、教材との組み合わせなどで、計算の前提が変わるためです。
学習塾の契約のうち、役務提供期間が2か月を超え、支払総額が5万円を超えるものは、特定商取引法上の「特定継続的役務提供」に該当し得ます。対象となる取引や中途解約のルールは、消費者庁の特定商取引法ガイドで確認できます。
ただし、家庭からの中途解約と、塾側の閉室による契約終了を同じ計算で処理できるとは限りません。返金額や契約終了の扱いは、契約書と経緯を弁護士へ示して確認します。返金の会計・税務処理は、税理士などへの確認を分けて行います。
公表前に、在籍家庭への説明をそろえる
ウェブサイトや教室前へ閉室のお知らせを出す前に、在籍家庭へ伝える内容を決めます。
- 新規入塾の受付を止める日
- 授業を行う最終日
- 講習、模試、振替授業の扱い
- 前払い費用の確認方法と回答時期
- 教材や預かり物の受渡方法
- 転塾候補がある場合の位置付け
- 閉室後の問い合わせ先と受付期限
引受先との合意が済んでいないなら、「別の塾が同じ条件で続ける」とは書けません。決定事項と確認中の事項を分け、確認中のものには次の連絡日を付けます。
相談は、生徒名を伏せたまま始められる
閉室するか、授業を減らすか、別の講師へ引き継ぐか。まだ結論が出ていなくても、学年別の人数、授業の種類、未実施分、閉室日の候補、引受候補の有無は整理できます。初期の相談に生徒名簿は要りません。
匿名相談では、氏名、学校名、連絡先、成績を伏せます。個別の判断が必要になった段階で、契約書などを専門家へ安全な方法で示します。
事業の物語として残すなら、塾を始めた理由、地域で担ってきた役割、次へ残したい授業や教材を書けます。生徒を特定できる合格実績や経験談を添えなくても、何を終え、何をつなぎたいのかは伝わります。